暇の向こう側 ~暇つぶしてミラクル~

暇つぶしに野原を散歩してたら馬に出会いそれ以降多忙。野草食ったり木の実食べたりイギリス生活お馬さんと一緒。

メリークリスマス日本!

と言う、

 

面白い近未来的短編小説を読んだ。

 


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↓  ↓  ↓

 

〜メリークリスマス日本!〜

 

「あーもう、忙しいなあ。この歳のクリスマスはよう。12月入ってから休みなしだよ。お前さん、明日どこ?営業」

 

「俺は、幼稚園のイベント、そのあと夜はクラブイベント。ホント、忙しいよ。でもよ、忙しい忙しいって言いながら、結構楽しんでるよね」

 

「まあね。このためにあつらえた赤い西陣織の衣装もいいだろう?」

 

「ああ、すごくいいよ。なんか楽しいよね。ぱーーーっと日頃の憂さ晴らしっていうかさ、しんどいけどさ」

 

「ああ、俺なんかこのために毎日筋トレしてたから。実は」

 

「へえー、そうなんだ。60歳にしてはいい体してると思ったよ。サポートレッグとか脚にはめるやつとかあるけど、やっぱ自前の筋肉が物を言うよなあ」

 

「サンキュー。ところで、お前さんとこはいいよな。奥さんと同い年だから一緒に楽しめるね。クリスマス」

 

「そうなんだよ、最近の若い人の間ではクリスマスのカンレキロースを夫婦で楽しむために、結婚の条件が同い年だってよ」

 

「へえ、そうかい」

 

「ほれ見てみ、これ家内とおそろの大島紬の赤のちゃんちゃんこ。ペアルックだよ、ペアルック。ところでお前さん、本番のイヴはどちらで?」

 

「渋谷。渋谷で魚肉投げだよ。人多すぎだよな、あそこは」

 

「俺たちは浅草。ここも多いぜ」

 

「俺の兄は奈良に住んでるんだけど、3年前に、東大寺でやったらしいぜ。魚肉投げ」

 

「へえ。どこも盛り上がってるな」

 

「本番楽しみだなあ」

 

「本番前の幼稚園とかの小さなイベントもそれなりに楽しいけどね」

 

「そうだねえ」

 

「12月は俺たち還暦者にとってわくわくする季節だなあ。この日をどれだけ待ちわびたか」

 

「ホントホント、本番に向けて体調整えておかないとね。一生に一度だしね」

 

「おうよ、気合い入れてがんばろうや」


 

2XXX年の12月、ちまたではそんな老人『カンレキロース』たちの会話が聞こえてくる。


******

 

 かつて日本は「ハイテクノロジーの国」と言われ、世界中から羨望の眼差しで見られていたことがあったらしい。そんな事はいにしえの昔。2XXX年の日本は世界から取り残され、世界共通語といわれる英語を話す人も人口の何パーセントでしかなく、未だにコインとかお札とかお金が流通し、ファクシミリという謎の機械がどこの会社、家庭でも存在し、暗証番号、顔認識、声認識よりもハンコというオンリー・イン・ジャパンな事が多々残る、世界常識が一切通じない世界唯一のガラパゴス国家になった。
 
 それゆえに、もともとは外国から入ってきたものでも、日本で日本人によってアレンジされ変化を遂げた。

 

 例えば、元々は外国から入っていた、『ハロウィン』とか言うお祭りは日本で独自の進化をとげ、『ハローウイーーーン』という祭りになった。ハローと叫びながらウイーーーンと軽トラックという形の車両をひっくり返すお祭りとして定着したらしい。祭りに軽トラが出現したのは2018年だと言われている。2XXX年の今では、この『ハローウイーーーン』というお祭りは、軽トラという形の張りぼてをみんなでよってたかってぼこぼこにしたり、焼いたりするお祭りになっている。

 

 それと同じく日本独自に進化したのはクリスマスだろう。大昔1889年に西洋から日本に伝わったクリスマス。西洋の神様の誕生を祝うお祭りらしい。2000年ごろから日本ではクリスマスにフライドチキンを食べるという風習があったようだ。本場の西洋の国ではターキー、七面鳥を食べるということにもかかわらず、なぜか日本ではファストフードのフライドチキンをクリスマスイヴに買い、食い漁るという、日本独自の現象が起きていて、その頃から日本のクリスマスは独自の道を進み始めていたらしい。

 それは留まることなく日本風に変化し、今やクリスマスといえば、還暦を迎えた赤いちゃんちゃんこを着た老人『カンレキロース』がハム、魚肉ソーセージを町の人に配ったりイベントで投げたりするのが日本のクリスマスの定番となっている。

 

 老人大国になって久しいこの国では、ある時期から老人にスポットライトあてたビジネス、イベントが国をあげて盛んになり、『カンレキロース』もその一環であった。
『カンレキロース』とは『還暦ロース』と書く。赤い衣装のサンタクロースと、還暦を迎えた60歳の年寄りが赤いちゃんちゃんこを着る太古の昔の風習と掛け合わせたものだ。

 

「60でもまだ若い。サンタクロースは還暦ロース!クリスマスにロースハムを送ろう!!」

 

というキャッチコピーで国内のハムソーセージ製造会社が還暦の人限定に雇い、ロースハム、ソーセージなどをクリスマス時期にサンタクロースに扮して配達したのが始まりだった。

 サンタクロースと還暦とを合わせて還暦ロースとし、ロースとロースハムを無理矢理こじつけて宣伝したら、それが信じられないことに大ヒット。少し前まではクリスマスにはロースハムが主流だったが、最近ではレトロブームで、コスパもよく常温でキープできるし、持ち運びに便利。手軽に食べれる。という理由で魚肉ソーセージが人気だ。

 

 大企業等がクリスマスになると、還暦の老人をカンレキロースとして雇い、魚肉ソーセージを投げるという、ちょっと節分に似た感じの『魚肉投げ』というイベントがあちらこちらで開催されていてクリスマスの風物詩となっている。

 

 そしてそのハム、魚肉ソーセージは、国内製造、国内漁業、国内養豚、すべて国産で賄うことができ、かなり長い間、外資系に駄々もれだった消費者マネーは国内でまわるようになり、景気もよくなり、第一次産業をする老人も増えてきた。衰えた足腰はサポートレッグ、サポートアームという装置を装着することにより、きつい作業が老人でも可能になるのだ。

 それだけではない。カンレキロースの衣装である赤いちゃんちゃんこが大ヒット。有名国内産の綿、絹を使い、日本の全国織物産業、服飾関係会社がこぞって還暦ちゃんちゃんこを作り出した。
お金持ちなどは、自慢のマイちゃんちゃんこを作るために高価な職人の手による織物を競って買い始めた。それにより日本の伝統工芸織物が奇跡的に復活した。

 いわば、カンレキロースとは日本独自に進化した、和風サンタクロースで、日本のクリスマスはこのように進化を遂げたのであった。

 

 2XXX年12月、今年も赤いちゃんちゃんこを着た老人カンレキロースが町を行き交う季節がやってきた。自慢の赤いちゃんちゃんこを見せびらかすように、そして子供たちに「メリークリスマス!!」と手を振りながらカンレキロースは街をねり歩く。たまに、自腹で魚肉ソーセージを買い、町行く子供にプレゼントしたりもする。

 

「メリークリスマス!!メリークリスマス!!」

 

「ところでさ、メリークリスマスってなんだろね。知ってるか。意味?」


「知らんなあ。どういう意味なんだろうね」


「それと、昔のクリスマスって、フライドチキン食べてたらしいよ。なんでだろうねえ。謎だ」


「えーっ、クリスマスにフライドチキン!?考えられないよ。クリスマスは魚肉ソーセージを食べるに決まってるだろ」


「まあ、何がともあれ、ありがたいよな。60になっても元気で魚肉ソーセージ投げれてよ、マジ楽しくね?」


「ああ、そうだねえ。マジ楽しいぜ。メリークリスマス!」


「メリークリスマス!」


******

 

 そんな、他国では考えられないクリスマスを味わおうと諸外国から若い人たちが、また、60歳になった老人たちが記念にカンレキロースになるために日本のクリスマスを体験しに来たり、高価な伝統工芸織物で赤いちゃんちゃんこを作りにやって来る。ハンコと円というお金を持ち歩き現金で買い物をすることも人気の一つらしい。そうやって外貨をこの国に落としていく。


 2XXX年現在、国自体がテーマパークとなった日本。クリスマス時期はもちろんのこと一年を通して海外からやって来る観光客はあとをたたない。

メリークリスマス日本!

 

 

 


おわり

 

 

↑  ↑  ↑

 

むっちゃ面白いやん、コレ。

と思ってたら、

 

あらっ、コレってば、

ふぉざちゃんの3年前のカクヨムでの作品だった。アハハっ。

メリークリスマス日本!(佐賀瀬 智) - カクヨム

 

 

 

 

 

 

 

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